2℃に設定した低温庫の中に約1年保存されていたカリン果実を切断してみてびっくり!
ほとんど全ての種子が発根していたのだ。
種子が発芽・発根するには一定期間の低温に遭遇しなければならず,低温貯蔵によって種子休眠が打破されたことは納得できる。
しかし,この温度下で根が伸びていたことにはちょっと驚いた。
その後,室温で放置してみるとしっかり生長し,ちゃんと生きていることがわかる。なんとたくましいやつらなんだ!
感動すると共に,もう一つの疑問が生じる。
この子たちは,切断されなくても,この堅い実を突き破って発芽する力があるのだろうか・・・
そういうわけで,切断していない実を残しておくことにした。
このような方法で実生が生育できるとすれば,長年の疑問が一つ解決する。
果物の種子は,鳥や獣などの捕食者が実を食べ,周辺へまき散らされることによって新しい実生として生長できるのだと思っていた。そして果物が美味しく成熟する意味は,その捕食者へのサービスと引き替えに種子繁殖という目的があるからに他ならない。
ところが,カリンに限っては,成熟したときに綺麗な色と甘い芳香は発生させるが,味は強烈に渋くて酸っぱく,おまけに果肉は木のように硬いままである。とても食えたものではなく,鳥がつつくわけでもなければ獣のエサになるとも思えない。食べているのはシンクイガの幼虫くらいである。「これでは種子繁殖は無理なのではないか?」と感じていたのだ。
しかし,もし発芽個体が実を突き破って生長できるなら,実は木から落ちるだけで目的を達成できるということになる。もっとも,カリンの木の周りでそんなに実生が増えているわけでもなく,現実はそんなに甘くはないのだろう。
これまでの観察からは,常温で放置した果実は茶色くなりながら縮んで硬い木の塊のようになり,金槌でたたかないと割れないくらいになってしまうことが多い。これでは中から突き破るなどとても無理であろう。
しかし(おそらく微生物の影響で)柔らかく腐食するようになる果実があり,条件が揃えば可能性もあるような気がする。まあ,この目で確認するまでは何とも言えないのだが・・・
自然界の仕組みはまだまだ謎がいっぱいだ!